A①収益還元法計算の基礎第1回(等比数列の和の計算と複利年金現価率)

 まず、等比数列とはある足し算(引き算も含む)の式が一定の並びになっているものです。一番目の項(これを初項という。)に、ある一定の数値(これを公比という。)を乗じると二番目の項になる。さらに、二番目の項に公比を乗じると三番目の項になるという足し算です。以下同様に前の項に公比を乗じるとその項になり、どこまで続くかにより、無限等比数列または有限等比数列がある。足し算は以下の並びです。

 一番目の項+二番目の項+三番目の項+・・・+N番目の項・・・①

 通常は、初項A、公比Rとします。

 先に実際の数値で表します。初項1、公比5、項数5とします。

 Z=1+5+25+125+625・・・②

 これが規則的な並びの足し算です。初項1に公比5を乗じると第二項の5、第二項5に公比5を乗じると第三項の25、第三項25に公比5を乗じると第四項の125、第四項125に公比5を乗じると第五項の625です。

 これを前述の、「初項A,公比R」の一般形で表すと(項数5)、

 Z=A+AR+AR²+AR³+AR⁴・・・③

 各項の計算を理解してください。上記数値例では、第五項は初項1に公比5を4回乗じて625となります。1×5⁴=625です。第二項、第三項、第四項は初項1に、公比をそれぞれ一回、二回、三回乗じています。等比数列であれば、③式になります。

 次に、求める等比数列の和を、③式のようにZ=~とします。

 ここからは一種の計算テクニックです。Zを③式より簡単に表します。③式の両辺にRを乗じます。

 左辺は、Z×R=RZ、右辺は全体にRを乗じるので、

 右辺は、R×(A+AR+AR²+AR³+AR⁴)

 右辺は中学生でやった「かっこ」をはずす計算をします(分配法則)。

 右辺は、R×A+R×AR+R×AR²+R×AR³+R×AR⁴

     =AR+AR²+AR³+AR⁴+AR⁵

 よって、

 RZ=AR+AR²+AR³+AR⁴+AR⁵・・・④

 ④式の右辺は③式の右辺と並び方が似ています。ここがポイントです。

 ③式と④式を縦に並べます。④式から③式を引き算します。

    RZ=  AR+AR²+AR³+AR⁴+AR⁵・・・④

     Z=A+AR+AR²+AR³+AR⁴    ・・・③

(R-1)Z=-A            +AR⁵ ・・・⑤

 そもそも④式を③式にRを乗じて導出したのは、③式と並びが似ている式をつくるためです。⑤式の両辺を(R-1)で除して、分子のAをかっこの外に外して式を整理します。

 Z=(-A+AR⁵)/(R-1)

 Z=A(R⁵-1)/(R-1)・・・(有限等比数列の和)⑥

 ちなみに、③式に1/Rを乗じても③式の類似式ができます。これが一般の等比数列の和の計算です。

 また、無限等比数列の場合は終わりの項は③式と④式は同じになります。上記同様に④式から③式を引き算して両辺を(R-1)で除して、式を整理します。

     RZ=  AR+AR²+AR³+AR⁴+AR⁵+・・・ ・・・④

      Z=A+AR+AR²+AR³+AR⁴+AR⁵+・・・ ・・・③

 (R-1)Z=-A                      

      Z=(-A)/(R-1)

      Z=A/(1-R)・・・(無限等比数列の和)⑦

 ⑥式と⑦式の計算ですべての係数の計算が可能です。

 それでは本題に入ります。複利年金現価率の計算です。

 利回りr、年数n(5)年とします。求める複利現価の総和は、

 Z=1/(1+r)+1/(1+r)²+1/(1+r)³+1/(1+r)⁴

 +1/(1+r)⁵・・・⑧

 ⑧式は初項1/(1+r)、公比1/(1+r)の等比数列の和です。④式をつくるのと同様に⑧式と類似の式をつくります。ここでは公比は分子が1の分数なので、⑧式に(1/公比)を乗じた式を用意します(⑧式に公比を乗じた式でも計算可能です。)。

 ⑧式の両辺に(1+r)を乗じた式を用意します。

 (1+r)Z=(1+r){1/(1+r)+1/(1+r)²

  +1/(1+r)³+1/(1+r)⁴+1/(1+r)⁵} 

  分配法則で中かっこを外します。

 (1+r)Z=1+1/(1+r)+1/(1+r)²+1/(1+r)³

 +1/(1+r)⁴・・・⑨

 Z=  1/(1+r)+1/(1+r)²+1/(1+r)³

 +1/(1+r)⁴+1/(1+r)⁵・・・⑧

  ⑨式-⑧式より、

      rZ=1-1/(1+r)⁵

 ここから式を整理します。右辺を通分します。

      rZ={(1+r)⁵-1}/(1+r)⁵

 両辺をrで除して、

       Z={(1+r)⁵-1}/{r(1+r)⁵}・・・⑩

 ちなみに、一般形は⑩式の「5乗」を「n乗」と書き換えます。

 この式は、純収益を1としたときの純収益の現在価値の総和です。仮に純収益が100万円であれば、、Z×100万円で純収益の現在価値の総和が算定されます。

 また、⑧式・⑨式が永続する式とすると、⑨式から⑧式を引き算した式は、

 (1+r)Z=1+1/(1+r)+1/(1+r)²+1/(1+r)³

+1/(1+r)⁴+1/(1+r)⁵+・・・ ・・・⑨

Z=  1/(1+r)+1/(1+r)²+1/(1+r)³

+1/(1+r)⁴+1/(1+r)⁵+・・・ ・・・⑧

      rZ=1

 となり、  Z=1/r

 です。これも純収益が1のときのその現在価値の総和です。仮に純収益がaとすると、その現在価値の総和は、Z×aとなりaZ=a/rです。右辺a/rはご承知の永久還元法です。

 不動産鑑定評価における経済数学は、主として収益還元法及び借地権の賃料差額還元法で使用されます。これらは利息計算・割引計算の組み合わせであり、計算方法自体は高校数学の無限(有限)等比数列の和です。計算方法はワンパターンで、マスターすると忘れないものです。

 先に考え方をマスターしてから、計算方法を実践してください。

A②収益還元法計算の基礎第2回

1 単利

  単利の利率は、(年利率×年数)です。

(例1)年利率3.0%の6年の単利の利率

   3.0%×6年=18%

2 利息計算

  複利の利率は、1年複利の場合、元利合計は「(1+年利率)の年数乗」です。

  元利合計の数値を「複利終価率」といいます。

(例2)年利率3.0%の6年の1年複利の複利終価率は、

    (1+3.0%)⁶≒1.194(複利終価率)

3 割引計算

   1年複利の割引後の元本の利回りは、「1÷{(1+年利率)の年数乗}」(複利現価率)です。

(例3)割引率3.0%の6年の割引後の元本相当の複利現価率は、

    1÷(1+3.0%)⁶≒0.837

4 連続する期間の「複利終価率の総和」(複利年金終価率)

連続する期間の複利終価率の総和を「複利年金終価率」といいます。

(例4)100万円ずつ10年間貯蓄した10年後の元利合計額は、

利率3.0%の1年複利

    複利年金終価率:11.464

    100万円×11.464≒1,146万円

複利年金終価率とは、複数の期間の複利終価率の総和です。(例)では、9年・8年・7年・・・1年・0年の各複利終価率の総和です。

(例5)逆に、10年間貯蓄して10年後の元利合計額が1,000万円、年利率3.0%の1年複利の場合の各1年間の貯蓄額は、

   1,000万円÷11.464≒872,296円

5 連続する期間の「複利現価率の総和」(複利年金現価率)

(例6)住宅ローン10年返済で、毎年100万円ずつ返済、利率3.0%の1年複利の当初元本価格は、

    複利年金現価率8.530

100万円×8.530=853万円

当初の借金総額は、853万円です。

複利年金現価率とは、複数の期間の複利現価率の総和です。(例)では、1年・2年・3年・・・10年の各複利現価率の総和です。

(例7)逆に、借金総額が1,000万円のとき、10年返済、利率3.0%の1年複利

     毎年の返済額は、

1,000万円÷8.530≒1,172,333円

6 不動産の価格と賃料

  価格の基礎となる期間は現在から永久の将来までの期間(途中で譲渡・相続により引継ぎがあるが所有権は存続する。)です。

価格の経済価値は、現在から永久の将来までの期間の使用収益権(年額賃料)の現在価値の総和です。

  賃料の基礎となる期間は通常1月です。

  賃料の経済価値は、各月額賃料です。

7 配偶者居住権

  残存余命期間の経済価値の現価の総和です。

 (例8)余命10年、割引率5.0%、不動産価格3,000万円の場合の配偶者居住権は、

    年額賃料:3,000万円×5.0%=150万円

    複利年金現価率:7.722

    配偶者居住権:150万円×7.722=11,583,000円

8 償還基金率

(例5)の計算例参照

  償還基金率とは、N年後に一定額を得るために毎年期末に積み立てる価値です。

  すなわち、複利年金終価率の逆数です。

 (例5)の場合の償還基金率:1÷11.464≒0.0872

  1,000万円×0.0872=872,000円

9 年賦償還率

(例7)の計算例参照

  年賦償還率とは、一定金額をN年間にわたって各期末に元金と利子を均等で

 償還する価値です。

  すなわち、複利年金現価率の逆数です。

(例7)の場合の年賦償還率:1÷8.530≒0.117

  1,000万円×0.117=117万円

A③収益還元法計算の基礎第3回

 収益還元法は、「純収益(各経済的利益)の現在価値の総和」を求めるという理論を貫徹してください。永久還元法と有期還元法では、第1期~第5期まで同じ足し算をします(すべて有期還元法・DCF法では、保有期間・分析期間を5年間に統一しています。)。第6期~∞の将来までを永久還元法・有期還元法・DCF法で分けて考えます。

 永久還元法は、

 Z=a/(1+Y)+a/(1+Y)²+a/(1+Y)³+a/(1+Y)⁴+a/(1+Y)⁵+・・・=a/Y    ・・・①

 Z=1/(1+Y)+1/(1+Y)²+1/(1+Y)³+1/(1+Y)⁴+1/(1+Y)⁵+・・・=1/Y    ・・・②

 有期還元法の第1期~第5期までは、

 Z=a/(1+Y)+a/(1+Y)²+a/(1+Y)³+a/(1+Y)⁴+a/(1+Y)⁵=a×{(1+Y)⁵-1}/Y(1+Y)⁵・・・③

 Z=1/(1+Y)+1/(1+Y)²+1/(1+Y)³+1/(1+Y)⁴+1/(1+Y)⁵={(1+Y)⁵-1}/Y(1+Y)⁵  ・・・④

(Z:求める価格、a:毎期の純収益、Y:割引率です。)

 ②式は、①式にa=1を代入して求めています。この式が永久の複利年金現価率です(ただし、通常「複利年金現価率」というのは有期です。)。

 ④式は、③式にa=1を代入して求めています。この式が複利年金現価率です。複利現価率の5年間の総和です。割引率を5.0%で説明します。計算が面倒でなければ第1期~第5期の複利現価率の総和でも、5年間の複利年金現価率でも、どちらでも同じ結果です。すなわち「複利年金現価率」が「純収益の現在価値の総和」そのものなのです。

 第1期~第5期の複利現価率の総和(④式の真中の辺の計算):

 0.952381+0.907029+0.863838+0.822702

 +0.783526=4.329476

 5年間の複利年金現価率(④式の右辺の計算):4.329477

 少数第7位を四捨五入したため、0.000001誤差が生じています。

 仮に割引計算をしない定額法では、1×5=5です。

 5-04329477=0.670523は割引計算上の純収益の減少分です。

 なお、DCF法は、第1期~第5期の純収益を別個に数値設定するので、5年間まとめて計算するには、純収益の現価を加重平均した平均単年度純収益に置き換えることで計算上可能です。

 複利年金現価率等の係数は、すべて主要な数値(③式のa)を1とした場合のZを求めるためのものです。したがって、毎期の純収益が100万円であれば、④式のZ×100万円で求まります。


A④収益還元法計算の基礎第4回

 留意事項の収益還元法のところに「減価償却費の算定方法には定額法、償還基金率を用いる方法等があり、適切に用いることが必要である。」定額法は簡単ですが、償還基金率を用いる方法はどうでしょうか。端的に言えば、将来の建物の建替え費用を積み立てるという点は定額法と同様ですが、1年複利で運用して早期に積み立てる分は多額の利息を生むので毎期の積立額は利息分定額法より少なくなります(通常建物の償却期間は長期ですが、ここでは計算を簡単化するため、償却期間は5年に設定しています。)。

 A=Z(1+Y)⁴+Z(1+Y)³+Z(1+Y)²+Z(1+Y)+Z

  =Z×{(1+Y)⁵-1}/Y    ・・・①

 1=Z(1+Y)⁴+Z(1+Y)³+Z(1+Y)²+Z(1+Y)+Z

  =Z×{(1+Y)⁵-1}/Y    ・・・②

 Z=A×Y/{(1+Y)⁵-1}   ・・・③

 Z=Y/{(1+Y)⁵-1}      ・・・④

 (Z:求める毎期の積立額、Y:割引率、A:建物価格)

 ①式は、5年間減価償却して積立額を1年複利で運用して5年後に建物価格(A)まで積み立てるために毎期一定額(Z)とするものです。 

 留意点は第1期の積立額は5年後まで運用するから4年間の運用ですなわち4年間の複利終価率を乗じて求めます。第2期は3年間、第3期は2年間、第4期は1年間、第5期はゼロ年間の運用で、それぞれ毎期の積立額の各複利終価率を求めて、毎期の積立額の複利終価の総和が建物価格と等しいとして方程式を解きます(割引率:5.0%)。

 ②式は、①式にA=1を代入して求めています。この式のZが償還基金率です。複利年金現価率と同様に建物価格が1億円であれば、Z×1億円で毎期の積立額が求まります。

 4年間の複利終価率から0年間の複利終価率の総和(5年間の複利年金終価率、すなわち、償還基金率の逆数)は、

 (1+Y)⁴+(1+Y)³+(1+Y)²+(1+Y)+1

=1.21550625+1.157625+1.1025+1.05+1

=5.52563125(5年間の複利終価率)

 定額法では1×5=5です(0.52563125が利息分です。)。

 Zはその逆数なので、1/5.52563125=0.18097480(③式も同様の結果)

 定額法では、1/5年=0.2なので、毎期の積立額の運用による減少額は、

 0.2―0.18097480=0.0190252である。

 1億円の建物は5年間の償却期間で、定額法では毎期の積立額が2,000万円(1億/5年間)に対して、償還基金率によると18,097,480円(0.18097480×1億円)の積立で済みます。利息分は2,000万円―18,097,480円=1,902,520円の毎期の積立の減少分です。

 どの係数も定額法との比較で、利息計算・割引計算の意味を理解できます

A⑤収益還元法計算の基礎第5回

 「賃料の前払い的性格を有する一時金の運用益及び償却額」を「年賦償還率」で算定します。当該一時金の額を「毎期の運用益及び償却額」の現価の総和に等しいという方程式を立てて「毎期の運用益及び償却額」を求めます。

 すなわち、第1回の「毎期の純収益」から「純収益の現在価値の総和」を求める反対の作業です。上記の関係はここでは「毎期の純収益(毎期の運用益及び償却額)」を「純収益の現在価値の総和(毎期の運用益及び償却額の現価の総和)」から求めるのです。逆の関係で、両者の指数は一方の「逆数」です。年賦償還率は、

 B=Z/(1+Y)+Z/(1+Y)²+Z/(1+Y)³+Z/(1+Y)⁴+Z/(1+Y)⁵=Z×{(1+Y)⁵-1}/Y(1+Y)⁵・・・①

 1=Z/(1+Y)+Z/(1+Y)²+Z/(1+Y)³+Z/(1+Y)⁴+Z/(1+Y)⁵=Z×{(1+Y)⁵-1}/Y(1+Y)⁵・・・②

 Z=B×Y(1+Y)⁵/{(1+Y)⁵-1}・・・③

 Z=Y(1+Y)⁵/{(1+Y)⁵-1}・・・④

 (Z:求める運用益及び償却額、Y:割引率、B:賃料の前払い的一時金の金額)

 ②式は、①式にB=1を代入して求めています。「一時金の金額(B)」が「毎期の運用益及び償却額(Z)」の現価の総和に等しいという方程式を立ててZを求めます。

 ここは第1回の復習です。第1期~第5期の複利現価率の総和が5年間の複利年金現価率です。忘れた方は第1回を参照ください。4.329476です。その逆数をとり、

 1/4.329477=0.23097478です。定額法では、1/5=0.2なので、0.23097478-0.2=0.03097478だけ毎期の利息分増加しています。年賦償還率は、B=1のときのZなので、一時金の金額が100万円であれば、「運用益及び償却額」はZ×100万円です。0.23097478×100万円

 =230,975円です。定額法では、0.2×100万円=20万円ですから、

 「毎期の運用益及び償却額」は、30,975円それより利息分増加しています。

 係数のまとめです。

 係数は単純な二つの「複利現価率」「複利終価率(複利現価率の逆数)」を使い各四つの係数を求めます。「複利現価の合計」に関する二つ、すなわち、純収益の現在価値の総和である「複利年金現価率」、一時金の金額から毎期の運用益及び償却額を求める「年賦償還率(複利年金現価率の逆数)」です。

 「複利終価の合計」に関する二つ、すなわち、「複利年金終価率」(毎期の一定額の終価の総和であるが、この係数は通常問題にならない。)、毎期の減価償却費の終価の総和である建物価格から毎期の減価償却費を求める「償還基金率(複利年金終価率の逆数)」である。

 まとめると、「複利現価の総和」及び「複利終価の総和」に関する四つを整理して、そのうち三つは収益還元法の各場面と関連付けて整理してください。

 終価の総和は、毎期の積立額(配分額)の単純総和(定額法の総和)より大きくなり、現価の総和は、毎期の積立額(配分額の)単純総和(定額法の総和)より小さいです。

A⑥収益還元法計算の基礎第6回

 残る係数は、毎期の積立額(配分額)が毎期一定率で逓増又は逓減する場合の複利現価率・複利終価率・複利現価の総和に関する二つ・複利終価の総和に関する二つの、計六個のものです。

 先に、毎期一定額の積立額(配分額)の場合の収益還元法の通常の手法を説明します。

 直接還元法の内、永久還元法は、永久期間の複利年金現価率(複利年金現価率は通常は有限期間ですが、説明上永久期間とする。)で、純収益a=1とすると、

 P=1/Y    ・・・①

 直接還元法の内、有期還元法は、留意事項には「純粋な有期還元法」には第1期~第n期(第5期)までの「純収益の現価の総和」のみ算定しています。

 他方、「インウッド式」及び「ホスコルド式」は式が二つの項に分離して、左項で第1期~第n期(第5期)までの「純収益の現価の総和」を、右項で第(n+1)期(第6期)から∞の将来までの「純収益(各経済的利益)の現価の総和」を算定しています。なお、ホスコルド式の左項については後述します。

 また、DCF法は第1期~第n期(第5期)までは、Σの左項で「各期ごとの異なる純収益」の現価の総和を求めて、右項で第(n+1)期(第6期)~∞の将来までの「純収益(各経済的利益)の現価の総和」を算定しています。

 各第1期~第n期(第5期)までの「純収益の現価の総和」は第1回の式・説明を参照ください。ここでは、「インウッド式」・「ホスコルド式」・「DCF法」の各右項について説明します。留意事項のインウッド式(及びホスコルド式)の右項では、

 P(右項)=(PLn+PBn)/(1+Y)⁵ ・・・①

 P(右項)=(PLN-E)/(1+Y)⁵   ・・・②

 基準のDCF法の右項では、

 P(右項)=PR/(1+Y)⁵・・・③

 PR= a₅/R₆      ・・・④

 です。引き続きN=n=5年とする。

 ここで、第6期~∞の将来までの「純収益の現価の総和」を式で表すと、

 P(右項)=a/(1+Y)⁶+a/(1+Y)⁷+a/(1+Y)⁸+・・・ ・・・⑤

 ={1/(1+Y)⁵}{a/(1+Y)+a/(1+Y)²+a/(1+Y)³+・・・}・・・⑥(計算の過程は「収益還元法の概要」参照)

 ⑤式⑥式にa=1を代入して、

 P(右項)=1/(1+Y)⁶+1/(1+Y)⁷+1/(1+Y)⁸+・・・ ・・・⑦

 ={1/(1+Y)⁵}{1/(1+Y)+1/(1+Y)²+1/(1+Y)³+・・・}・・・⑧

 ⑦式は6年間の複利現価率、7年間の複利現価率、8年間の複利現価率、・・・、と6年間~∞の将来までの複利現価率の総和です。

 ここで、第5期を価格時点に設定すると、始点の第6期が第1期になり、第7期は第2期、第8期は第3期、・・・、終点は∞の将来と変わらず、その結果第5期を価格時点に設定すると、第1期~∞の将来までの永久還元法になります。

 式で考えるためには、⑦式から⑧式に変形します。ここでは、

 {1/(1+Y)⁵}を各項の共通項として全体に乗じる形で左端におきます。5年間の複利現価率を共通項にしたので、第6期は1年間(6-5)の複利現価率、第7期は2年間(7-5)の複利現価率、第8期は3年間(8-5)の複利現価率、・・・となります(⑧式の下線部分)。⑧式の太字部分が永久還元法で太字部分の左側は5年間の複利現価率となります。すなわち、太字部分は価格時点が第5期末の直接還元法又は土地残余法となります。直接還元法は①式(5年後の「土地価格+建物価格(―売買仲介手数(仲介業者で売却の場合))」)に適合し、土地残余法は②式(5年後の「土地価格―建物撤去費」)に適合します。また、理論上収益還元法で式を立てるのが一般ですが、土地価格・建物価格は原価法・取引事例比較法・開発法等の手法も代用可能になります。借地権・底地では、さらに式を変形して適用可能です。

 「DCF法」の③式・④式は、⑥式から導出します。⑥式の太字部分は価格時点を5年後とする永久還元法なので、④式の分子PRと同値になります。③式の分母は5年間の複利現価率なので、⑥式の左端の項と同値になります。すなわち④式のa₅・R₆は、それぞれ、a₅=a(⑥式)、R₆=Y(⑥式)であれば、⑥式から③・④式(5年間の複利現価率×5年後を価格時点する永久還元法)が矛盾しません。

 「ホスコルド式」は留意事項で、P(右項)はインウッド式と同様で左項は、

 P(左項)=a×1/{Y+(蓄積利回りiの償還基金率))   ・・・⑦

 ⑦式は、建物の減価償却を類推してください。償還基金率は、定額法より効率的に配分額を少なめにしました。1/「Y+iの償還基金率」は利回りYでない利回りiの方だけ定額法より合理的に運用して減価償却分を小さくしている計算方法であると考えるのです。(1/利回りの和)の特殊版です。建物(鉱山等危険性の高いの工作物)の減価償却は耐用年数が短期で建物の減価償却率より高位な利回りiの償還基金率で、その他に係る利回りは鉱山の短期の有期還元でやや高位のYで合算しています。

 「Y+蓄積利回りIの償還基金率」=「償却率を含まない割引率+建物(鉱山等)の償却率」と考えます。有期還元の有期期間の年賦償還率に相当するので、有期期間の長短にもよりますが、Yは5%~8%程度です。

A⑦収益還元法計算の基礎第7回

 ここからは、毎期の積立額(配分額)が前記の積立額(配分額)に対して一定の割合で逓増又は逓減する場合の係数についてです。

第1期の積立額(配分額)は「a」、第2期は「a(1+G)」、第3期は「a(1+G)²」、第4期は「a(1+G)³」、・・・です。

 純収益が一定の場合のaの部分を逓増又は逓減する場合は上記に置き換えて、かつ、複利現価率又は複利終価率を乗じます。

 ただし注意点として、逓増複利現価率は、便宜上n=5のとき、     {(1+G)/(1+Y)}⁵となっております。実際は
(1+G)⁴/(1+Y)⁵なので、逓増複利現価率は実践的ではありません。

 残る係数の内、毎期の積立額(配分額)が毎期一定率で逓増又は逓減する場合の複利現価率・複利年金現価率から見ていきます。前者を「逓増複利現価率」、後者を「元利逓増年金現価率」という。第1期を通常の複利現価で算定し、第2期以降は、各前期に対して(1+G)倍で純収益が毎期一定率で上昇(G>0)又は下落(G<0)していくことを想定します。第1期の純収益はa、その現価は、a/(1+Y)、第2期の純収益は前記aに、(1+G)を乗じたa(1+G)、その現価はa(1+G)/(1+Y)²、同様に第3期の純収益はa(1+G)²、その現価はa(1+G)²/(1+Y)³で、以下第4期の純収益の現価はa(1+G)³/(1+Y)⁴、第5期の純収益の現価は(1+G)/(1+Y)⁵です。ここで、毎期一定率で純収益が逓増する場合のその現価の総和を求める係数は前述の「元利逓増年金現価率」で、

 Z=a/(1+Y)+a(1+G)/(1+Y)²+a(1+G)²/(1+Y)³+a(1+G)³/(1+Y)⁴+a(1+G)⁴/(1+Y)⁵  ・・・①

 ここで、a=1を代入して、Zについて解くと、

 Z=1/(1+Y)+(1+G)/(1+Y)²+(1+G)²/(1+Y)³

+(1+G)³/(1+Y)⁴+(1+G)⁴/(1+Y)⁵   

 Z={(1+Y)⁵-(1+G)⁵}/(Y-G)(1+Y)⁵     ・・・②

 なお、この式の永久還元法は、

 Z=a/(Y-G)・・・③

 R=Y-G(純収益の変動率Gのときの割引率から還元利回りを求める方法です。)

 収益還元法の純収益が逓増する場合のインウッド式(及びホスコルド式)の左項は、

 P(左項)=a×{(1+Y)⁵-(1+G)⁵}/(Y-G)(1+Y)⁵・・・④

 収益還元法でインウッド式を適用する場合はこの係数を活用できます。逓増又は逓減する場合は「元利逓増年金現価率」が重要で、他の係数は参考程度です。

 以下同様に毎期の積立額が逓増する複利終価率及び償還基金率は、それぞれ名称不明及び「逓増償却率」です。毎期の逓増償却額は上記逓増純収益で、複利終価率は第2回の式を参照ください。両者を乗じて求まります。第1期は純収益1に、複利終価率(1+Y)⁴を乗じて、第2期は純収益(1+G)に、複利終価率(1+Y)³を乗じて、第3期は純収益(1+G)²に、複利終価率(1+Y)²を乗じて、第4期は純収益(1+G)³に、複利終価率(1+Y)を乗じて、第5期は純収益(1+G)⁴に、複利終価率1を乗じて、その総和は、

 Z=(1+Y)⁴+(1+G)(1+Y)³+(1+G)²(1+Y)²

+(1+G)³(1+Y)+(1+G)⁴               

 Z={(1+Y)⁵-(1+G)⁵}/(Y-G)             

 ここで、元本が5年後に(1+G)⁵だけ増加しているから、(1+G)⁵で割り、

 Z={(1+Y)⁵-(1+G)⁵}/(Y-G)(1+G)⁵

・・・(複利年金終価率の逓増版の係数)⑤

 その逆数をとり、

 Z=(Y-G)(1+G)⁵/{(1+Y)⁵-(1+G)⁵}・・・(逓増償却率)⑥

 逓増する年賦償還率は、「元利逓増償還率」です。これは「元利逓増年金現価率」の逆数です。

①収益還元法の三手法の概要

直接(永久)還元法・インウッド式・DCF法の関係について述べます。

簡単化のためインウッド式の有期期間及びDCF法の保有期間を、ともに5年間とします。どの手法も第一期~無限の将来までの純収益の現在価値の総和を求めております。したがって、それぞれの計算は「各期の純収益」と「各期の利率」を計算上明示することが可能です。そこで、三手法の「各期の純収益」と「各期の利率」を明示していきます。不動産鑑定評価基準の記号で明示します。

なお、不動産鑑定評価基準・留意事項のインウッド式・DCF法の各左項は第一期~第五期の純収益の現在価値の総和であり、インウッド式・DCF法の各右項は第六期~無限の将来の純収益の現在価値の総和であります。ご注意ください!

直接(永久)還元法:P=a/R

純収益(第一期~無限の将来)は「a」、利率(第一期~無限の将来)は「R」

インウッド式:P=a/(1+Y)+a/(1+Y)²+a/(1+Y)³+a/(1+Y)⁴+a/(1+Y)⁵+b/Z(1+Y)⁵

純収益(第一期~第五期)は「a」で純収益(第六期~無限の将来)は「b」、利率(第一期~第五期)は「Y」で利率(第六期~無限の将来)は、「Z」

DCF法:P=a₁/(1+Y)+a₂/(1+Y)²+a₃/(1+Y)³+a₄/(1+Y)⁴+a₅/(1+Y)⁵+a₆/R₅(1+Y)⁵

純収益(第一期~第五期)は「a₁」「a₂」「a₃」「a₄」「a₅」で、純収益(第六期~無限の将来)は「a₆」、利率(第一期~第五期)は「Y」で利率(第六期~無限の将来)は「R₅」

インウッド式の「b」「Z」は便宜的に私が設定しました。補足説明します。

インウッド式の右項の分子は、n年後の不動産価格(「土地価格マイナス建物撤去費」又は「土地・建物価格」)ですが、当該価格を土地残余法又は永久還元法で求めることを仮定すると、

PLN-E=b/Z又は、PLn+PBn=b/Zを満たす「b」「Z」がまさに、第六期~無限の将来における「純収益」であり「利率」に該当します。

すなわちこれらの三手法の相違点は、純収益・利率を単一にするか、各期ごとに設定するか(DCF法の保有期間の純収益)の違いに過ぎません。この内容を前提に次回はDCF法を適用した場合の直接還元法・インウッド式の適用のあり方をご説明いたします。

②DCF法適用の際の直接還元法

 DCF法を適用する場合には、証券化評価でないときにも、直接還元法による検証が常に可能です。

 通常の場合、投資家の観点で保有期間を設定します。5年~10程度です。短期保有が合理的であることを想定したDCF法を適用します。短期保有が合理的であると仮定した場合、直接還元法では長期保有のシナリオによる計算が可能です。当然、長期保有による直接還元法(永久還元法)の収益価格は、短期保有によるDCF法の収益価格より、低位になります。永久還元法は、長期間不動産で保有するため、還元利回りは、短期で売却を想定しているDCF法による最終還元利回りよりも将来の不確実性に伴うリスクが高く高位になります。

 逆に稀なケースとして、長期保有が合理的である場合には、DCF法では、永久に保有する想定で、(n+1)期の純収益及び最終還元利回りを求めます。直接還元法では、短期保有を想定して、インウッド式を適用します。DCF法の収益価格よりもインウッド式の収益価格の方が低位となるべきです。

 仮にDCF法と同じシナリオで直接還元法を適用すると、両者は同額の収益価格となり、意味がありません。短期保有・長期保有のどちらが合理的かを判断して、DCF法を適用し、その逆のシナリオで、直接還元法による検証を行うべきなのです。

③収益還元法の概要

 収益還元法の計算式は、すべて同様の枠組みで考察します。すなわち第1期の純収益の現在価値から順に加算して、第2期の純収益の現在価値、第3期の純収益の現在価値、第4期の純収益の現在価値、第5期の純収益の現在価値、・・・、無限の将来までの純収益の現在価値の総和を求めるものです。要説に式の説明がございます。

 P=A1/(1+Y)+A2/(1+Y)²+A3/(1+Y)³

 +A4/(1+Y)⁴+A5/(1+Y)⁵+・・・ ・・・①

(P:収益価格、An:n期の純収益、Y:割引率又は還元利回り)

 基本的に、永久還元法だけでなく、土地残余法、建物残余法、インウッド式、ホスコルド式、DCF法のすべてが同様の式です。

 永久還元法は、A=A1=A2=A3=A4=A5=・・・=A∞ のときで、

 P=A/Y です。

 土地残余法・建物残余法は、土地帰属純収益又は建物帰属純収益=Aとおくと、

 P=A/Y です。

 ここで、インウッド式及びホスコルド式の有期還元期間を3年かつDCF法の保有期間(又は分析期間)を3年とします(他の年数でも考え方は同様です。)。

 左項・右項の記載は、留意事項の各式の左項・右項です。

 DCF法の左項(Σの式)は第1期~第3期の純収益の現在価値の総和、DCF法の右項(復帰価格の現価)は第4期~無限の将来の純収益の現在価値の総和です。

 インウッド式及びホスコルド式もDCF法の左項・右項と同様です。有期還元期間の左項は第1期~第3期の純収益の現在価値の総和、有期還元期間以降の期間である右項は第4期~無限の将来の純収益の現在価値の総和です。

 A=A1=A2=A3とすると、インウッド式及びホスコルド式の左項になります。

 なお、DCF法の左項(Σの式)は毎期の純収益は異なります。

 インウッド式の左項は、

 P(左項)=A1/(1+Y)+A2/(1+Y)²+A3/(1+Y)³

      =A×{(1+Y)³-1}/{Y(1+Y)³}・・・②

 ②式太字部分は「複利年金現価率」です。

 ホスコルド式の左項は、

 ②式=A×1/〔Y+{Y/(1+Y)³-1}〕・・・③

 ③式太字部分のYをIにするとホスコルド式となります。

 ③式は、P=A/(Y+償却率)

 と考えられます。減価償却の方法は定額法・償還基金率による方法の二つがあるので、償還基金率(③式太字部分)は建物(鉱山等)の償却率といえます。このときYは償却率を含まない割引率です。なお、Y(割引率)は通常償却率を含むものですが、ホスコルド式では含まないようです。

 第4期~無限の将来の純収益の現在価値の式を変形します。

 A4/(1+Y)⁴=1/(1+Y)³×A4/(1+Y)

 A5/(1+Y)⁵=1/(1+Y)³×A5/(1+Y)²

 A6/(1+Y)⁶=1/(1+Y)³×A6/(1+Y)³

 A7/(1+Y)⁷=1/(1+Y)³×A7/(1+Y)⁴

 A8/(1+Y)⁸=1/(1+Y)³×A8/(1+Y)⁵

            ・

            ・

            ・

 第4期~無限の将来の式は1/(1+Y)³を共通項として表します。

 P(右項)=A4/(1+Y)⁴+A5/(1+Y)⁵+A6/(1+Y)⁶

 +A7/(1+Y)⁷+ A8/(1+Y)⁸+・・・

 ={1/(1+Y)³}{A4/(1+Y)+A5/(1+Y)²

           +A6/(1+Y)³+A7/(1+Y)⁴

           +A8/(1+Y)⁵・・・}・・・④

        ={1/(1+Y)³}×A/ ・・・⑤

 ④式は、太字部分が3年間の複利現価率で、太字部分を除く右側全体は、永久還元式です(A=A4=A5=A6=A7=A8=・・・=A∞と仮定する。)。よって、④式=⑤式が成り立ちます。

 すなわち、④式太字部分以外の右側全体は価格時点を3年後として第1期~無限の将来の純収益の現在価値の総和です。太字部分の複利現価率を乗じることで、3年後の収益価格を現在価値に割引しています。留意事項で表すと、

 ⑤式={1/(1+Y)³}×(PLn+PBn)

 ={1/(1+Y)³}×(PLN-E)

 なお、(PLn+PBn)も(PLN-E)も、価格時点を3年後とした場合の永久還元法での収益価格(直接還元法、土地残余法)が理論的ですが、3年後の対象不動産の価格なので、積算価格、比準価格及び開発法による価格での代用も可能です。

 DCF法の右項は、3年間の複利現価率×A(n+1期の純収益)/R3(最終還元利回り)ですが、⑤式の太字部分のYをR3に置き換えると、

 ⑤式={1/(1+Y)³}×A/R3

 です。

 まず覚えていただく結論は、「DCF法・インウッド式・ホスコルド式の左項は、保有(分析)期間及び有期還元期間(第1期~第n期)」の純収益の現在価値の総和で、「DCF法・インウッド式・ホスコルド式の右項は保有(分析)期間・有期還元期間以降の期間(第n+1期~無限の将来)」の純収益の現在価値の総和です。

 なお、(PLn+PBn)は仲介手数料Fを使用すると(PLn+PBn-F)に、(PLN-E)は残存期間満了間近の定期借地権は(-E)、当該定期借地権付の底地は(PLN)です。