A①収益還元法計算の基礎第1回(等比数列の和の計算と複利年金現価率)

 まず、等比数列とはある足し算(引き算も含む)の式が一定の並びになっているものです。一番目の項(これを初項という。)に、ある一定の数値(これを公比という。)を乗じると二番目の項になる。さらに、二番目の項に公比を乗じると三番目の項になるという足し算です。以下同様に前の項に公比を乗じるとその項になり、どこまで続くかにより、無限等比数列または有限等比数列がある。足し算は以下の並びです。

 一番目の項+二番目の項+三番目の項+・・・+N番目の項・・・①

 通常は、初項A、公比Rとします。

 先に実際の数値で表します。初項1、公比5、項数5とします。

 Z=1+5+25+125+625・・・②

 これが規則的な並びの足し算です。初項1に公比5を乗じると第二項の5、第二項5に公比5を乗じると第三項の25、第三項25に公比5を乗じると第四項の125、第四項125に公比5を乗じると第五項の625です。

 これを前述の、「初項A,公比R」の一般形で表すと(項数5)、

 Z=A+AR+AR²+AR³+AR⁴・・・③

 各項の計算を理解してください。上記数値例では、第五項は初項1に公比5を4回乗じて625となります。1×5⁴=625です。第二項、第三項、第四項は初項1に、公比をそれぞれ一回、二回、三回乗じています。等比数列であれば、③式になります。

 次に、求める等比数列の和を、③式のようにZ=~とします。

 ここからは一種の計算テクニックです。Zを③式より簡単に表します。③式の両辺にRを乗じます。

 左辺は、Z×R=RZ、右辺は全体にRを乗じるので、

 右辺は、R×(A+AR+AR²+AR³+AR⁴)

 右辺は中学生でやった「かっこ」をはずす計算をします(分配法則)。

 右辺は、R×A+R×AR+R×AR²+R×AR³+R×AR⁴

     =AR+AR²+AR³+AR⁴+AR⁵

 よって、

 RZ=AR+AR²+AR³+AR⁴+AR⁵・・・④

 ④式の右辺は③式の右辺と並び方が似ています。ここがポイントです。

 ③式と④式を縦に並べます。④式から③式を引き算します。

    RZ=  AR+AR²+AR³+AR⁴+AR⁵・・・④

     Z=A+AR+AR²+AR³+AR⁴    ・・・③

(R-1)Z=-A            +AR⁵ ・・・⑤

 そもそも④式を③式にRを乗じて導出したのは、③式と並びが似ている式をつくるためです。⑤式の両辺を(R-1)で除して、分子のAをかっこの外に外して式を整理します。

 Z=(-A+AR⁵)/(R-1)

 Z=A(R⁵-1)/(R-1)・・・(有限等比数列の和)⑥

 ちなみに、③式に1/Rを乗じても③式の類似式ができます。これが一般の等比数列の和の計算です。

 また、無限等比数列の場合は終わりの項は③式と④式は同じになります。上記同様に④式から③式を引き算して両辺を(R-1)で除して、式を整理します。

     RZ=  AR+AR²+AR³+AR⁴+AR⁵+・・・ ・・・④

      Z=A+AR+AR²+AR³+AR⁴+AR⁵+・・・ ・・・③

 (R-1)Z=-A                      

      Z=(-A)/(R-1)

      Z=A/(1-R)・・・(無限等比数列の和)⑦

 ⑥式と⑦式の計算ですべての係数の計算が可能です。

 それでは本題に入ります。複利年金現価率の計算です。

 利回りr、年数n(5)年とします。求める複利現価の総和は、

 Z=1/(1+r)+1/(1+r)²+1/(1+r)³+1/(1+r)⁴

 +1/(1+r)⁵・・・⑧

 ⑧式は初項1/(1+r)、公比1/(1+r)の等比数列の和です。④式をつくるのと同様に⑧式と類似の式をつくります。ここでは公比は分子が1の分数なので、⑧式に(1/公比)を乗じた式を用意します(⑧式に公比を乗じた式でも計算可能です。)。

 ⑧式の両辺に(1+r)を乗じた式を用意します。

 (1+r)Z=(1+r){1/(1+r)+1/(1+r)²

  +1/(1+r)³+1/(1+r)⁴+1/(1+r)⁵} 

  分配法則で中かっこを外します。

 (1+r)Z=1+1/(1+r)+1/(1+r)²+1/(1+r)³

 +1/(1+r)⁴・・・⑨

 Z=  1/(1+r)+1/(1+r)²+1/(1+r)³

 +1/(1+r)⁴+1/(1+r)⁵・・・⑧

  ⑨式-⑧式より、

      rZ=1-1/(1+r)⁵

 ここから式を整理します。右辺を通分します。

      rZ={(1+r)⁵-1}/(1+r)⁵

 両辺をrで除して、

       Z={(1+r)⁵-1}/{r(1+r)⁵}・・・⑩

 ちなみに、一般形は⑩式の「5乗」を「n乗」と書き換えます。

 この式は、純収益を1としたときの純収益の現在価値の総和です。仮に純収益が100万円であれば、、Z×100万円で純収益の現在価値の総和が算定されます。

 また、⑧式・⑨式が永続する式とすると、⑨式から⑧式を引き算した式は、

 (1+r)Z=1+1/(1+r)+1/(1+r)²+1/(1+r)³

+1/(1+r)⁴+1/(1+r)⁵+・・・ ・・・⑨

Z=  1/(1+r)+1/(1+r)²+1/(1+r)³

+1/(1+r)⁴+1/(1+r)⁵+・・・ ・・・⑧

      rZ=1

 となり、  Z=1/r

 です。これも純収益が1のときのその現在価値の総和です。仮に純収益がaとすると、その現在価値の総和は、Z×aとなりaZ=a/rです。右辺a/rはご承知の永久還元法です。

 不動産鑑定評価における経済数学は、主として収益還元法及び借地権の賃料差額還元法で使用されます。これらは利息計算・割引計算の組み合わせであり、計算方法自体は高校数学の無限(有限)等比数列の和です。計算方法はワンパターンで、マスターすると忘れないものです。

 先に考え方をマスターしてから、計算方法を実践してください。

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