①法令等の優先度

 労働基準法は、労働条件の最低基準です。したがって、労働協約・就業規則・労働契約に労働基準法を下回る労働条件を定めても、それは無効です。この場合、下回る部分については労働基準法の条件を定めたものとされます。

  労働基準法>労働協約>就業規則>労働契約(左記の規程ほど強制力が高いです。)
 右記規程は、左記の法令等の労働条件を最低基準とします。左記規準を下回る労働条件を定めた場合は、左記の労働条件が適用されます。
 なお、労働協約とは、使用者と労働組合との書面での合意事項(労働組合がない方は無関係)です。

②同一労働同一賃金(均等・均衡待遇)

 今世間では「同一労働同一賃金」が話題になっております。同じ条件では同一の賃金にすべきです。誰でも納得できます。

 では、均等・均衡待遇については、どうでしょうか。税務理論とパラレルになっております。税金の「水平的公平」「垂直的公平」です。

 「水平的公平」は、同じ所得の所得者は税額を同額にすべきということです。「垂直的公平」は、異なる所得の所得者は異なる税額にすべきということです。「均等待遇」は「水平的公平」と同様の考え方で、条件が同じならば、賃金は同額ということです。「均衡待遇(バランス)」は「垂直的公平」と同様の考え方で、異なる条件ならば、賃金は異なる額ということです。「均衡待遇」と「垂直的公平」は、異なり方(労働条件・所得額)に応じて、バランス良く異なる(賃金額・税額)べきということです。

 「均衡待遇」について整理すると、繰り返しになりますが、異なる労働条件の程度に応じて、バランス良く、賃金額を設定するということです。

④年間労働時間の限度

 ご承知のとおり、通常の業種は、原則1日8時間・1週40時間です。
 仮に1日8時間労働とすると、1週5日間労働(週休二日制)です。1年は52週1日ですから、年間休日の最低限度は、
   2日×52週+1日=105日
 年間休日の限度は、下記の制度適用がなければ、105日です。

 では、労働規準法の1年単位の変形労働時間制(原則として、時期による労働時間を平均化して、割増賃金を計算する制度)を活用して、1日7時間40分(460分)労働とした場合はどうでしょうか。
 通常の週は1週5日間労働です。しかし、1年間で追加の労働可能時間があります。
   20分×5日×52週+20分=5,220分
   460分×11日=5,040分
   5,220分-5,040分=180分
   105日-11日-1日=93日
 1年間のうち1日のみ労働時間を3時間(180分)として、その他の日の労働時間を7時間40分とすると、年間休日の最低限度は、93日です。

⑤解雇権濫用法理及び労働者側からの解約の申し出

 労働契約では、期間の定めのない契約の場合、事業主から解約の申し出を行うには相当の事由がなければならないことはご存知でしょうか。社会通念上妥当と認められる場合です(常識的に妥当な場合。)。 むやみに解雇権の行使ができないという解雇権濫用法理と言われる考え方です。したがって、就業規則に解雇の条件を明示していても、妥当性を欠く場合は、解雇権は制限されます(解雇できません。)。
 さらに、30日前までの解雇予告又は30日分の解雇予告手当の支払いが必要です。

 では、労働者側からの解約はどうでしょうか。業務内容の引継ぎが必要なので、「1(又は2)か月前の申し出を行うものとする。」という等のものが、就業規則又は労働契約に記載することが一般的です。

 しかし、労働法には明文の規定はなく、一般法である民法第627条第1項で、「雇用は解約の申し入れ日から2週間を経過することによって終了する。」とされています。したがって、上記の「1(又は2)か月前に申し出を行うものとする。」という規定に法的効力はなく、単なるお願いでしかありません。
 法律解釈をよくご理解した上で、労働条件にご記載ください。

⑥年次有給休暇の要点

 年次有給休暇制度に関しましては、法改正がありました。簡単化してお考えいただきます。以下改正点を中心にご説明します。
 年次有給休暇を10日以上取得する労働者に限定します。この労働者に対して、使用者は5日を「時季指定」しなければなりません。仮に、20日取得者では、5日時季指定して、残る15日は、旧制度と同様に通常労働者からの申し出により取得するということです。
 誤りやすい点は、できる限り労働者の希望を反映して、使用者が時季指定するということです。
 また、労働者の時季指定や計画的付与があれば、その日数は使用者の時季指定5日から引算します。つまり、労働者の時季指定及び計画的付与が5日以上あれば、もう使用者の時季指定は不要となります。

 まとめますと、繰り返しになりますが、旧制度との相違点は、年次有給休暇の10日以上の取得者に対して、5日を確実に指定して取得するというものです。

⑦変形労働時間制

 労働基準法には変形労働時間制という制度があります。4種類あります。
 「1箇月単位の変形労働時間制」「フレックスタイム制」「1年単位の変形労働時間制」「1週間単位の非定型的変形労働時間制」です。
 フレックスタイム制はご存知の方も多いでしょうか。
 変形労働時間制とは、簡単に言えば、繫忙期・閑散期等の労働時間の偏りを平均化することです。つまり、1日8時間・1週40時間を一定の期間で平均化して、時間外労働の労働時間を算定するものです。
 極端に偏ると健康を害しますから、いろいろと細かいルールはたくさんありますが、主旨は上記のとおりです。

⑧みなし労働時間制

 みなし労働時間制については、まず法律用語にご注意ください。「みなす」と「推定する」に違いがあります。「みなす」は事実の如何に関わらず、そのように取り扱います。他方、「推定する」は、現時点で事実が不明であればそのように取り扱いますが、反証があれば事実のとおりに取り扱います。

 みなし労働時間制には、以下の3種類があります。「事業場外労働のみなし労働時間制」「専門業務型裁量労働制」「企画業務型裁量労働制」です。
 みなし労働時間制の主旨は、労働時間管理が困難な場合で、不当に長時間労働を強いられることが少ない状況に適用可能となっています。
 「専門業務型裁量労働制」「企画業務型裁量労働制」は、各種要件のほか高額所得者に限定されます。

⑨就業規則・労働契約における不利益変更禁止の原則

 特に就業規則についてご注意いただきたい点です。
 自社の労働条件は、原則として、将来に向かって、現状維持又は向上していなければ、不利益変更として認められないことになります。厚生労働省の「モデル就業規則」は、所々労働条件が優遇されているので、経営状態の苦しい事業者はできる限り最低限度の労働条件を設定することにご留意ください。

⑩振替休日と代休

 振替休日と代休の違いはご存知でしょうか。同じようにも見えますが違いがあります。
 前提知識として、法定休日を1週間に1日設定することが必須であります。仮に1週間に2日休日があれば、1日労働させても別の1日を法定休日と確定できます。法定休日に労働させると休日労働の割増賃金の対象となります。

 では、1週間の休日が法定休日1日のみでしたら、どうでしょうか。

 振替休日とは、あらかじめ休日を労働日として、先の労働日を休日とするものです。したがって、原則として、1週間に1日の法定休日が確保されていれば、割増賃金の対象外となります。
 代休とは、休日の振替を行うことなく、休日労働を行い、後で労働日を休日とすることです。

 したがって、1週間の休日が法定休日1日のみでしたら、振替休日では、割増賃金の対象外ですが、代休では、法定休日の労働は割増賃金の対象です。