①一般法・特別法

 民法(一般法)と労働基準法(特別法):民事上取引全般と労働関係限定
 労働基準法(一般法)と労働契約法(特別法):労働全般と労働契約関係限定

 法律用語の特別法・一般法の関係をご存知でしょうか。これは他の法律との相対的な関係で決定されるものです。民法は民事上の行為の全般的な規定です。他方、労働基準法は民事上の行為の一部である労働関係に限定して適用される規定です。したがって、労働基準法は民法に対して限定的なために特別法であり、民法は一般法になります。

 では、労働基準法と労働契約法の関係はどうでしょうか。労働基準法は労働者と使用者の労働関係の全般的な規定です。他方、労働契約法は労働契約に限定された規定です。したがって、労働契約法は、労働基準法に対する特別法であり、労働基準法は一般法になります。

 前段で、労働基準法は民法との関係で特別法であり、後段で、労働契約法との関係で一般法でありました。他の法律との関係で相対的に決定されます。

 特別法は一般法に優先して適用されます。しかし、特別法に規定がない場合には、一般法の規定が適用されます。

②法の目的

 法の目的には、(1)法的安定性、(2)具体的妥当性があります。

 法的安定性とは、法の秩序が確立され、みだりに動かないことです。
 具体的妥当性とは、正義と言い換えることができます。すなわち、事柄の性質に応じて合理的な処理がなされることです。

 法的安定性は、できるだけ変化せずに一定であることを求めます。
 具体的妥当性は、時代の変化等に応じて適正なものを保護することを求めます。

③解釈論

 文理解釈とは、条文の字句に重点をおく解釈の方法です。
 文理解釈においては、法の文言は普通の意味にとるべきです。ただし、立法技術上一定の慣例がある言葉(法律用語)は、その慣例に従って解釈すべきです。
 論理解釈とは、条文の字句に固執せず、立法趣旨、法典全体の構造、沿革、具体的妥当性等を考慮して論理的に解釈する方法です。
 論理解釈は文理解釈の補充的なものです。

 論理解釈には、(1)拡張解釈、(2)縮小解釈、(3)類推解釈、(4)反対解釈があります。
 拡張解釈とは、条文の文言、用語を普通の意味より拡張して解釈すること。
 縮小解釈とは、条文の文言、用語を普通の意味より狭く解釈すること。
 類推解釈とは、ある事項に関して規定が存在しない場合に、類似の事項に関する規定を利用してする解釈。
 反対解釈とは、ある事項に関して規定が存在しない場合に、類似の事項に関する規定の適用を否定してする解釈。

 (論理解釈の実例「車馬通行止」の場合を通して)
 拡張解釈➡「馬」という概念を拡張的に解釈し、ロバやラバも通行できないという結論    
を導く方法(ロバ、ラバはウマ科に分類される)です。
 縮小解釈➡「車」という概念を縮小的に解釈し、オートバイは通行できるという結論を導く方法です。
※ いずれも言葉の範囲内での解釈です。

 類推解釈➡牛は「馬」ではないが、4本の足をもつ大きな動物であり似ているから、通行できないという結論を導く方法です。
 反対解釈➡牛は「馬」ではないから通行できるという結論を導く方法です。
※ いずれも、言葉に含まれない事項についての解釈です。

④故意・過失等

 善意とは、ある事実を知らないことです。
 悪意とは、ある事実を知っていることです。
 故意とは、わざと行う行為です。
 過失とは、注意義務に反すること。注意すれば知り得た、又は発生を防止し得たことです。 
 (軽)過失とは、注意義務違反の小さな過失です。
 重過失(重大な過失)とは、注意義務違反の著しい過失です。

 注意義務には、(1)善良なる管理者としての注意義務(善管注意義務)、(2)自己の財産に対するのと同一の注意義務があります。
(1)の注意義務違反は(軽)過失で、(2)の注意義務違反は重過失です。

 強行法規と任意法規
 法律の規定には、当事者がそれと異なる特約をした場合に、特約を無効とする規定と特約が優先して排除されてしまう規定があります。前者を強行法規、後者を任意法規といいます。

 信頼利益と履行利益
 信頼利益とは、無効な契約を有効であると信じたことによって被った損害をいい、履行利益とは、履行がなされなかったことにより被った損害をいいます。一般に、履行利益の方が信頼利益より範囲が広いです。

⑤一般条項

民法第1条第2項 信義誠実の原則(信義則)
民法第1条第3項 権利濫用の禁止

 一般条項とは、民法第1条第2項・第3項を言います。民法の特別法である労働法全般及び民法第2条以下の具体的な規定に当てはまらない事項であるが、保護する必要性がある場合に処理する条項で、抽象的な規定です。

 第2項は信義誠実の原則(信義則)です。当事者が契約関係にある場合に配慮すべきである事項をいう場合の義務です。例えば、形式上雇用契約自体には要請がないのですが、雇用契約の付随義務として事業主の従業員に対する安全配慮義務が信義則上要請されます。現在では労働契約法等に規定がありますが、昭和時代では民法第1条第2項で処理していました。

 第3項は権利濫用の禁止です。当事者が契約関係にない場合です。形式的には一見正当な権利の行使と言えるが、利益衡量すると、実質的には、権利濫用と言える場合が該当します。例えば、社会通念上妥当でない解雇権・出向権・転籍権等です。上記同様現在では労働契約法等に規定がありますが、昭和時代では民法第1条第3項で処理していました。

⑥損害賠償請求における根拠条文

 民法第415条 債務不履行責任
 民法第709条 不法行為責任
 民法第715条 使用者責任(不法行為責任の特殊類型)
 民法第710条~第715条 不法行為責任の特殊類型

 労働問題において、損害賠償請求を行う場合民法上415条の債務不履行責任及び709条の不法行為責任(715条の使用者責任は不法行為責任の一つ)の二つがあります。

 不法行為より債務不履行を適用した方が被害者にとって、立証責任・時効期間等の観点で有利であります。なお、判例通説では、両者は選択主張が可能です。

 415条の債務不履行責任は、当事者が契約関係にあり、債務が不履行にある場合です。債務が不履行であれば、債務不履行に非該当であるという立証責任は債務者側です。当該債権の時効期間は行使できることを知った時から5年間又は行使できる時から10年間のいずれか短期の期間です。

 債務不履行責任の拡張解釈としては、安全配慮義務があり、本来雇用契約にはないが、雇用契約の付随義務として、安全配慮義務があるという解釈をして、これに違反すると安全配慮義務違反による債務不履行であると考える立場です。これは昭和時代では前記一般条項の信義則(第1条第2項)による義務でしたが、現在では労働契約法等に明文化されております。

 709条の不法行為責任は、当事者の契約関係は問わず、故意・過失により、不法に損害を与えた場合です。立証責任は被害者側です。時効期間は加害者・損害を知ってから3年又は行為の時から20年のうちどちらか短期の期間です。

 715条の使用者責任は、709条の不法行為が成立する場合の使用者の監督責任であり、使用者の故意・過失がある場合です。

 709条・715条がともに成立する場合、連帯債務になります。被害者に賠償した金額が責任の負担部分より多い場合、求償が可能であれば、不法行為者・使用者間で超過部分を求償して精算できます。求償は他の連帯債務者が資力がない場合は不可能です。

 連帯債務とは、全額について連帯して債務を負うが、通常自身の負担部分があり、負担部分を超過する部分についても支払義務はあるものの、他の連帯債務者で負担部分より少ない弁済しかしていないものに求償できます。しかし、他の連帯債務者に資力がなければ求償できません。

 715条は使用者から不法行為者への求償を認めています。他方、不法行為者から使用者への求償は明文の規定はなく、解釈で決定します。

⑦代理と社会保険労務士法上の事務代理・提出代行

代理  :法律行為、処分権有、代理契約、3要件必須、無権・表見代理可
事務代理:事実行為、処分権無、委任契約、3要件不要、無権・表見代理不可

 社会保険労務士が行う「提出代行」は、必要に応じて行政機関等に説明を行うことや、行政機関等からの質問に回答し、提出書類に必要な補正を行う等の行為まで含まれます。

 社会保険労務士が行う「事務代理」は、委任の範囲内で内容の変更等を行い得るのみならず、申請等について、当該申請等に係る行政機関等の調査又は処分に関する主張又は陳述を行い得るものをいいます。

 現在では、提出代行と事務代理は厳格には区別されておらず、どちらも社会保険労務士業務として認識されています。

⑧事業継続困難な場合の危険負担

 休業手当と危険負担は併存します。
 危険負担は強行規定ではない任意規定です。特約で排除可能です。
 事業主の帰責事由の範囲の広狭があり、休業手当の場合が危険負担の場合より広いです。

 危険負担とは、労働契約のような双務契約の成立後に、債務者(労働者)の帰責事由によらずにその債務の履行が不能となった場合に、そのリスクを債権者と債務者のどちらが負うのか(本件では、債権者である使用者が賃金支払義務の履行を拒絶することができるのか)という問題です。
 双務契約とは、当事者双方が互いに対価的関係にある債務を負担する契約のことです。
 危険負担は、双務契約の成立後において、債務者の帰責事由によらずにその債務の履行が不能となった場合に、そのリスクを債権者と債務者のどちらが負うのかという問題です。
 なお、双務契約においては、各当事者は、それぞれ債権者であり債務者となりますが、危険負担については、「履行不能となった債務」(履行できなくなった債務)を基準として債務者・債権者を考えます。

 債務者主義とは、債務者が損をする場合です。債権者主義とは、債権者が損をする場合です。民法は、債務者主義を原則としています(民法第536条第1項)。
 この債務者主義の理由としては、双務契約では、当事者双方が互いに対価的関係にある債務を負っているのですから、一方の債務が消滅した場合には、他方の債務もその履行を強いられない(他方は反対給付の債務の履行を拒絶することができる)というのが公平といえることが挙げられます。
 しかし、令和2年4月1日施行の民法の改正により、危険負担の効果は、「債権者の債務の履行の拒絶」(反対給付債務の履行拒絶権)の問題に改められました。
 反対給付債務(代金支払義務)を消滅させるためには、契約(例:売買契約)の解除をしなければならないこととなりました。
 危険負担の効果の改正は、「債務者に債務不履行があった場合に、債務者に帰責事由がなくても、債権者が契約を解除できるように改められた」ことに連動している。
 改正後は、一方の債務がその帰責事由なく履行不能となった場合において、「他方の債務の履行を拒絶することができるか」という問題は「危険負担」が取り扱い、「他方の債務が消滅するか」という問題は「解除」が取り扱うことに区分されました。
 債務の履行不能について「債権者に帰責事由がある場合」は、債権者がリスクを負い、債権者は反対給付債務の履行を拒むことができず、債権者はその債務を履行することが必要となります(債権者主義。民法第536条第2項)。

 労働者の労働義務が履行不能となった場合は、当該履行不能が誰の帰責事由によるものかを考えます。
 既に労働者が履行した部分がある場合は、当該労働者は当該履行割合に応じた報酬(賃金)請求権を有します(民法第624条の2)。
 次に、使用者の帰責事由により労働者の労働義務が履行不能となった場合は、特段の事情がなければ、危険負担の債権者主義の民法第536条第2項が適用され、使用者は、賃金支払義務の履行を拒絶することはできず、従って、労働者は賃金全額を請求することができます。
 結局、ノーワーク・ノーペイの原則は、使用者に帰責事由がある労働義務の労働不能の場合(危険負担・債権者主義が適用される場合)には適用されないと考えることになります。

※ 代償請求権:債権者主義が適用される場合(債務者の履行不能について債権者に帰責事由がある場合)については、代償請求権(利益の償還)という効果も生じます(民法第536条第2項後段)。

 出演依頼者(Bとします)の帰責事由により出演不能となった場合に、この歌手(Aとします)が他の依頼者と別の契約をして、当該出演不能の期間中に他の会場でコンサートを開催したとしますと、歌手Aはこのコンサートにより得た報酬をBに償還しなければならないということです。
(ちなみに、民法改正により、代償請求権に関する一般的な規定が新設されていますが(民法第422条の2)。)
 

 しかし、民法改正により、「契約に基づく債務の履行がその契約の成立の時に不能であった」場合においても債務不履行に基づく損害賠償請求を行える旨の規定が新設されたため(民法第412条の2第2項)、原始的不能を目的とする契約も有効に成立しうることになりました。
 そこで、原始的不能を目的とする契約においても、債務者の帰責事由によらない契約上の債務の消滅に関するリスク分配の問題である危険負担が問題となりうることになります。
 つまり、債務者の帰責事由によらずにその債務が履行不能となったという危険負担における「履行不能」には、後発的不能だけでなく、原始的不能も含まれることとなりました。

 本件では、滅失自体には売主の帰責事由がありませんが、契約締結の際の帰責事由は認められるところ、今回の改正により、原始的不能を目的とする契約も(基本的に)有効となりえますので、契約締結の際の売主の帰責事由によって債務の本旨に従った債務の履行が不能となったものとして、売主に端的に債務不履行責任が発生するという構成が可能となりました(従って、損害賠償請求の範囲も、信頼利益に留まらず、通常通りの範囲(履行がなされなかったことにより被った損害。履行利益)にまで及びます)。

 売買契約においては、特定物の引渡しにより危険が移転する(売主が買主に特定物を引渡した以後に当該目的物が当事者双方の帰責事由によらずに滅失等した場合は、買主がそのリスクを負う)旨の規定が新設されました(民法第567条。第559条がこの第567条を売買契約以外の有償契約について準用しています)。
 また、「売買の目的として特定したものに限る」とは、特定物の他、不特定物が特定した場合も含むという意味です。)

 民法第567条(目的物の滅失等についての危険の移転)1.売主が買主に目的物(売買の目的として特定したものに限る。以下この条において同じ。)を引き渡した場合において、その引渡しがあった時以後にその目的物が当事者双方の責めに帰することができない事由によって滅失し、又は損傷したときは、買主は、その滅失又は損傷を理由として、履行の追完の請求、代金の減額の請求、損害賠償の請求及び契約の解除をすることができない。この場合において、買主は、代金の支払を拒むことができない。
2.売主が契約の内容に適合する目的物をもって、その引渡しの債務の履行を提供したにもかかわらず、買主がその履行を受けることを拒み、又は受けることができない場合において、その履行の提供があった時以後に当事者双方の責めに帰することができない事由によってその目的物が滅失し、又は損傷したときも、前項と同様とする。
※ ちなみに、上記の第567条第2項は、売主の履行の提供があったにもかかわらず、買主の受領遅滞により特定物の引渡しがなされないうちに当事者双方の帰責事由によらずに履行が不能となった場合(引渡しがなされていないため、同条第1項は適用されません)においても、公平の観点から、買主に危険が移転することを定めたものです。

 改正後の解除は、債務者の帰責事由を要件としないこととなり、債務の履行を受けられない債権者が「契約の拘束力から解放される手段」という性格に改められたものです。
 当事者双方に帰責事由のない履行不能が生じた場合は、「改正後」は、債権者(例:買主)は(債務者(例:売主)に帰責事由がなくても)、「存在(発生)」している反対給付債務(代金支払債務)の拘束を免れるため、「解除」することができることとなりました。

 なお、民法の改正により、雇用契約の労働者に割合的報酬(賃金)請求権が認められる明文が設けられました(民法第624条の2)。

 労働者の「履行不能」と考えるのか、それとも使用者の「受領遅滞(受領不能)」と考えるのかが前提問題となりえます。

民法第413条(受領遅滞)
1.債権者が債務の履行を受けることを拒み、又は受けることができない場合において、その債務の目的が特定物の引渡しであるときは、債務者は、履行の提供をした時からその引渡しをするまで、自己の財産に対するのと同一の注意をもって、その物を保存すれば足りる。
2.債権者が債務の履行を受けることを拒み、又は受けることができないことによって、その履行の費用が増加したときは、その増加額は、債権者の負担とする。

民法第413条の2(履行遅滞中又は受領遅滞中の履行不能と帰責事由)
1.債務者がその債務について遅滞の責任を負っている間に当事者双方の責めに帰することができない事由によってその債務の履行が不能となったときは、その履行の不能は、債務者の責めに帰すべき事由によるものとみなす。
2.債権者が債務の履行を受けることを拒み、又は受けることができない場合において、履行の提供があった時以後に当事者双方の責めに帰することができない事由によってその債務の履行が不能なったときは、その履行の不能は、債権者の責めに帰すべき事由によるものとみなす。